
検査も治療もない日が今日から6日続く。
MRIとCTの画像を組み合わせて立体的な放射線照射の準備をするためらしい。
あの、長い針で他の臓器や骨にさわることなく肝臓の目的のピンポイントに金を差し込む施術からしてどうしてこんなことが出来るのかと、されている最中でも不思議でたまらなかった。
今や医学の進歩は常人には理解不能な領域にきている。
まぁ、昔から医術は理解不能だったろうな。
時間を持て余して大きな窓から外を眺める。

病棟に両側が囲まれた隙間の向こうがわにくすんだ色の博多湾。対岸のように能古の島が横たわり、その横に、ポッンポッンと小机島か。
海は凪なのか、風は冷たいのか…。
空調でほんわかと暖かいこちら側からは分からない。
ほとんどが、ほぼ末期症状の高齢者ばかりの言わば癌病棟。
油断していると芯まで冒されそうなよどんだ空気しか漂っていない。
北西の風も、潮の香りも、波の音も、笑い声も…。
聞こえるのはため息や小さなひとり言や足音だけ。
おれは違うよ。
今でも笑っている。
また、あそこへ戻るからね。
MRIとCTの画像を組み合わせて立体的な放射線照射の準備をするためらしい。
あの、長い針で他の臓器や骨にさわることなく肝臓の目的のピンポイントに金を差し込む施術からしてどうしてこんなことが出来るのかと、されている最中でも不思議でたまらなかった。
今や医学の進歩は常人には理解不能な領域にきている。
まぁ、昔から医術は理解不能だったろうな。
時間を持て余して大きな窓から外を眺める。

病棟に両側が囲まれた隙間の向こうがわにくすんだ色の博多湾。対岸のように能古の島が横たわり、その横に、ポッンポッンと小机島か。
海は凪なのか、風は冷たいのか…。
空調でほんわかと暖かいこちら側からは分からない。
ほとんどが、ほぼ末期症状の高齢者ばかりの言わば癌病棟。
油断していると芯まで冒されそうなよどんだ空気しか漂っていない。
北西の風も、潮の香りも、波の音も、笑い声も…。
聞こえるのはため息や小さなひとり言や足音だけ。
おれは違うよ。
今でも笑っている。
また、あそこへ戻るからね。
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最新設備が据え付けられた広い部屋
感情を感じられない空気の中でときどき聞こえるのは、
「息を吸ってー」「はい、はきまーす」
CTの中に横たわっている僕のみぞおちに刺さった長い針がそのたびにすこしずつ下に下がる。
何とも言えない鈍い痛みが体の中心で起こり体が硬くなる。
(ちゃんと入れ)(成功しろ)
ただ祈る
肝臓に金のマーカーを入れる施術
その甲斐あってか無事二個が肝臓に入った。
放射線治療の際に目印となる大事なマーキングだ。
去年からもう何度かこういう場面があった。
壊れた機能を修理されているAndroidのような錯覚
この状況を受け入れるしかない運命。
本番は10日後、最新医学と技師の腕を信じるのみ。
感情を感じられない空気の中でときどき聞こえるのは、
「息を吸ってー」「はい、はきまーす」
CTの中に横たわっている僕のみぞおちに刺さった長い針がそのたびにすこしずつ下に下がる。
何とも言えない鈍い痛みが体の中心で起こり体が硬くなる。
(ちゃんと入れ)(成功しろ)
ただ祈る
肝臓に金のマーカーを入れる施術
その甲斐あってか無事二個が肝臓に入った。
放射線治療の際に目印となる大事なマーキングだ。
去年からもう何度かこういう場面があった。
壊れた機能を修理されているAndroidのような錯覚
この状況を受け入れるしかない運命。
本番は10日後、最新医学と技師の腕を信じるのみ。


月に一度は、実家に行ってちょっとしたことをして帰って来る。
大体が、草刈りだが、90に近い両親ができなくなった力仕事や野良仕事が多い。
とは言っても、こちらもこの歳にしては情けないほど体力衰え、重篤な病持ち。
悲しいぐらいに役に立たなくなっている。
さらにまた、近々、再々入院することになっている。
その前にと思い機械を使って草刈りをして、
着替えに納屋に入ると、父親が昔使っていた釣り道具がタナに淋しく置いてあるのが否応なく目に付く。
その大体が過去の遺物程度の使えないものなので、いつもはちょいと目に入れては素通りするのだが
その日に限って無造作に置いてあるナイフを手に取った。
丁度、自分の魚を締めるナイフが古くなって来たからだろうか。
皮の鞘から抜くと刃はまださびていない。柄は鹿の角のようだし。
使えるかなと、父親に「くれ。」と言ってふと鞘の裏を見ると字が書いてある。

s57.2.9… 買った日だな。昔の住所と名字、…妙なところで親父、几帳面なんよな。
カタカナで何か書いてある。読めない。
父親に、
「なんち書いとうとね?」(なんて書いてるのかね)
と尋ねると、その字を見て、
「うん?…ゾリゲン。」
何だか懐かしい響き。
昔、聞いたような。
刃の根元にもSolingen と彫り込みがある。
あー、ゾーリンゲン。
昔、カミソリのメーカーで聞いたんじゃなかったかな。
床屋のカミソリとか、ひげそりとかを言うときゾーリンゲンと言っていたかな。
なつかしい。
調べてみると、ドイツのゾーリンゲンという刃物の街の名だった。
ま、35年間、父親の元にあり、こうして久しぶりに日の目を見ることができたってわけか。
これから活躍してもらうように体を回復させて魚つりまっしょうね。
そう思って、ただシコシコと刃を研ぐのでした。

大体が、草刈りだが、90に近い両親ができなくなった力仕事や野良仕事が多い。
とは言っても、こちらもこの歳にしては情けないほど体力衰え、重篤な病持ち。
悲しいぐらいに役に立たなくなっている。
さらにまた、近々、再々入院することになっている。
その前にと思い機械を使って草刈りをして、
着替えに納屋に入ると、父親が昔使っていた釣り道具がタナに淋しく置いてあるのが否応なく目に付く。
その大体が過去の遺物程度の使えないものなので、いつもはちょいと目に入れては素通りするのだが
その日に限って無造作に置いてあるナイフを手に取った。
丁度、自分の魚を締めるナイフが古くなって来たからだろうか。
皮の鞘から抜くと刃はまださびていない。柄は鹿の角のようだし。
使えるかなと、父親に「くれ。」と言ってふと鞘の裏を見ると字が書いてある。

s57.2.9… 買った日だな。昔の住所と名字、…妙なところで親父、几帳面なんよな。
カタカナで何か書いてある。読めない。
父親に、
「なんち書いとうとね?」(なんて書いてるのかね)
と尋ねると、その字を見て、
「うん?…ゾリゲン。」
何だか懐かしい響き。
昔、聞いたような。
刃の根元にもSolingen と彫り込みがある。
あー、ゾーリンゲン。
昔、カミソリのメーカーで聞いたんじゃなかったかな。
床屋のカミソリとか、ひげそりとかを言うときゾーリンゲンと言っていたかな。
なつかしい。
調べてみると、ドイツのゾーリンゲンという刃物の街の名だった。
ま、35年間、父親の元にあり、こうして久しぶりに日の目を見ることができたってわけか。
これから活躍してもらうように体を回復させて魚つりまっしょうね。
そう思って、ただシコシコと刃を研ぐのでした。


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